過去の風景

 午前11時半まえ、曇天。昨日から降り続いていた雨も漸くあがった。右籾の空も、これから晴れてゆく。 

 部屋の中の天井を見上げてみると、過去の風景がある。28年もまえになった写真パネルである。懐かしいと云うよりも、なにか取り返しのつかないことになっていることを、今更ながら知らせる写真パネルである。写真に写っている人々は後姿の妻をのぞいて、すべて疎遠になっている。写真を撮った者とも疎遠である。阿佐ヶ谷の街とも無縁になり、いま関東の田舎の僻村に居る。

 阿佐ヶ谷の歩道橋をあるくことも、もうないだろう。

「ギャリー歩道橋」の看板は、今は我が家の部屋の壁に掛かるばかりである。

 看板は埃をかぶり、もう誰にも背負られることはない。

 街を行くこともなく、

 駅の改札を抜け、

 電車に乗ることもない。・・・人生は無常である。若さは、とうの昔に失い、今は老残の余生である。・・・今一度、人生を取り戻せるとしたら、なにがあるだろうか。