原点回帰

 午後1時半、曇天。気温34度。室内の窓から顔を出すと、外気は熱したオーブンのなかのように暑い。

 連日、コロナ禍のことばかり考えていて、いい加減疲れてしまった。併し、気を緩めることはできない。できないので、コロナ禍はコロナ禍として、もうひとつ熱中できることを見つけたいと思った。

 37年程前、私は油絵制作に熱中していた。今、その頃へ戻ってみたいと思いだしている。しっかりと、若い頃の情熱は再現できないが、似たような、懐かしい情熱の感じは蘇りつつある。若い頃と、いま現在の違いは、体力の違いである。若い頃は、6時間キャンバスのまえに坐っていようが苦にならなかったが、今は、6時間はできない。せいぜい2時間ぐらい坐っているのがいいところである。気力、情熱があっても軀がついてゆかない。腰が痛くなる。腰がこって仕方がない。按摩器をあてて、なんとか凌いでいる。

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 雑然としたアトリエである。アトリエと言っても、物置小屋をアトリエにしているので、物が多いのは仕方がない。こんな所であるが、居心地はいい。37年前の、制作することの苦悩を取り除いた喜びだけがある。

 若い頃は、なにか新しい表現をしなければならないと思い込んでいた。併し、新しい表現など、どこにもなく、ただ表現のスタイルは時代によって変化してゆくだけで、新しく見えていた表現は過去にもあり、気が付いていなかったりしただけのことであった。確かに、マルセル・デュシャンのように絵画表現を離れた美術表現の誕生はあったが、平面を離れて絵画表現はあるはずもなくデュシャンのやったことは絵画ではないというだけであった。

 今、私は、油絵を描いていて、楽しい。過去にやっていたので、描く方法は知っていて、苦も無く、描ける。絵に若干深みが足りないような気もするが、気にしない。楽しむために描き、人に褒められることは求めない。ただ、描きたい絵を描き、そして、若干でも売れて、人の手許に届き、喜んでもらえればいい。ただ、それだけである。