春の食事会

 午後4時、曇天。気温14度。暖かくはないが、寒くもない。阿佐ヶ谷駅周辺で春の食事をしようと自転車で出掛けたが、案外、近場で済んでしまった。
 八雲荘から歩いても充分行ける距離にビストロ・センチメントはある。店の扉をあけると、異空間がひろがる印象であった。昼時の店内は、あいている席がふたつだけで、あとは来客でひしめいていた。

日大二高通りにあり、道路の交通量は多い。
 店内は、アコーディオンの音楽が低くながれてフランスの食堂でも想像させる雰囲気があり、併し、へんに気張らず肩のチカラの抜けた良い空間になっている。

▲普段の食事とちがい、オレンジ色の紙と皿に戸惑う。
 いつもゆく定食屋やラーメン屋とちがい、しばらくしてから牡蠣のポタージュがきた。

▲大きな見慣れぬ皿におどろく。
 スプーンでひと匙すくって飲むと、口の中にひろがる濃厚な牡蠣の味に、今まで食べたことのない触感に感激する。53年も生きていて、これが初めてとは、実に情けない。人生の喜びをまったく知らずに過ごしてきたことを残念に思う。いや、いや、これから、大いに食べ尽くそうと思う。コレステロールの数値や血糖値なぞ、何するものぞ、の意気込みである。いろいろ気にして食べずに過ごしては生きている意味がないだろう。

▲よこに坐るマキコの前菜はフルーツサラダである。
 いろどり鮮やかなマキコのフルーツサラダを横目に牡蠣のポタージュを丹念に舌で味わう。そして、しばらくして、フランスパンを焼いたものと、オリーブオイルがきて、それにつけて食せ、という。不慣れに、ぽろぽろとパンのかけらを落としながら食べ、今度はメインの桜鱒のソテーがきた。

▲白い皿の縁にぱらぱらとついているのは、桜の花びらを乾燥させた塩で、これをつけながら食すという。
 繊細な食べ物の感動しきりである。匂い、香り、雰囲気、それらも食べ物であることを知った。そして、なによりも、見た目よりもボリュームがあり満腹になった。

▲マキコのメインは、鴨のソテーであった。
 よこで見ているだけでもお腹一杯の気分になってゆく。実際、鴨ソテーを少しつまんだりしていたから、ふたりともメインをふた皿食べたようなものであった。
 ランチタイムの廉価であったので、ひとり2000円しなかった。約1時間のゆったりとした昼食だった。