ポストのなか

 午後2時前、曇天。気温3〜15度。たぶん、今頃は15度だろう。3月になって東京も暖かくなった。
 アパートの集合ポストに、私のポストはあるが、最近ポストの中が凄いことになってきた。水道関係の宣伝だろうが、マグネット式の小片がポストの中で犇めきあっている。最初、このマグネット式小片が投函されたときは、一枚づつ取り出して処分していたが、あまりにしばしば投函されるので、つい面倒になって鉄製ポストの壁面にくっつけて済ませていた。すると、次第にご覧のような塩梅になってしまった。

▲ポストの中の前面、左右の壁面、天井にたくさんのマグネット式広告が貼りついている。
 昨夜は、吾が八雲荘の入口で小規模な騒動があった。午後7時すぎ、私の部屋のドアをノックして、何事か不明瞭な文言を話す若い男が扉の外に現われた。何を言っているのか聞き取れず、何度か聞き直していたが、やはり相手の意図が判らない。仕方がないので、扉のところから離れ、炬燵に坐していると、尚もドア扉を敲く音がする。あまりに、しきりに敲くので、何事か大事があるのかと思い、仕方なく炬燵から腰を上げて扉の前へゆき、再度、聞くとNHK云々の語があり、それならばと扉をあけて、うちはテレビは見ていない旨を伝えた。併し、男は納得せず、何を納得しないのか判然としないまま男と私は小競り合いのような言い争いになり、激昂した私は警察を呼ぶぞと男に言い放った。すると、男は自分こそ警察に通報すると言い、言いながら携帯電話を操作する仕草をみせ、共用部の廊下を歩いてアパートの敷地から出て行った。男は、NHKの関係者を装い、併し、社員証や身分証の提示をしなかった。たぶん、まるでNHKとは無関係の男なのだと思うが、やはり、男の意図が判らなかった。
 つまり、昨晩の騒動は、或る若い男が苦情を言いに我が家に来た、と云うことになる。苦情の内容は不明であるが、男には何か鬱屈するものがあり、それを我が家にぶつけてきたのであった。
 この話は説明が難しいが、私と妻は、よく人からものを訊かれることがある。道を歩いていて、知らない人に、それは男女を問わず、年齢もいろいろで、とにかく人々から頼られるような、または、からまれるような状態になることが多い。これは一度や二度のことではなく、相当以前からそうであったが、昨夜の小事件は、それらの現象に似ているような気がしてならない。
 ポストの中を見ると、これからも、そうなんだろうなと云う思いを拭いきれない。