「無能の人」を彫る

 午後4時前、曇天。気温24度無いぐらい。涼しい。いや、肌寒いぐらいである。東京は、夏から一転して秋突入の塩梅である。
 昨夜、青林工藝舎の編集長から次号アックスに掲載する特集用のカットを依頼された。つげ義春氏の漫画からパロディ、または模写をとのことであったが、私は、パロディよりも氏へオマージュを込めた模写の版画が良いだろうと「無能の人」のコマ絵から作ることにした。

▲トレペに写して、それから版木に写して、版木を彫って、刷って、彩色して完成である。
 新潮文庫の「無能の人・日の戯れ」つげ義春著のページをめくって、小さなコマ絵を見ながらコピー用紙にデッサンしてゆく。トレースすれば作業は早いが、やはり、オマージュ作品なので、いちいち構図を確認しながら、また絵の濃淡を確認して描いてゆく。
 近頃は、私の仕事にたいして無理解な者たちに囲まれ、また雑事に忙殺されて、いったい自分が何者なのか、また何のために生きているのか実感に乏しく、自分を見失っていたので、ここにきてアックス編集部からの依頼は、まさに天啓の如く、本来の自分を取り戻すのに充分であった。
 これが掲載されるのは、10月の下旬の予定である。