安部慎一展をみる

 午後1時過ぎ、雨天。気温摂氏27度ぐらい。台風10号の接近にともない細かい雨が降っている。当分雨降りが続くらしい。
 昨日は、夕方頃陽が傾きかけたころから阿佐ヶ谷の街に単身自転車で出かけた。ギャラリー白線で開催されている「安部慎一」展を見るためである。
 路地裏にあるギャラリーの向い側の路地に自転車を停める。停めた所は、一日の作業が終って誰もいない一戸建ての基礎工事現場で、狭くごみごみした路地裏であったが、そこだけ歯が抜けたように空間があいていた。
 その土地は、25年以上昔、質屋の松坂屋があった土地であった。白木の引き戸の門構えで、日本家屋の平屋だった。白髪の、坊主頭の小さな老人が質屋を経営していた。一見抜け目のない顔をしていたが、私の価値のない古本などを無理を言って預かってもらっていた。世話になったな、と質屋のない土地を見ながら、もう泉下の人だろう質屋の老人を思った。
 「安部慎一」展は「阿佐ヶ谷心中」の生原稿が額装して展示してあった。それを見ながら、もう自分には70年代への情熱が無いなと感じた。原稿は枠線のはみ出したところをホワイトで修正している部分が随分見うけられて、こんなにも、うまく線がひけないものかと、へんに感心してしまった。それから、展示原稿からは描画のはっきりとした情熱が感じられず、併し、印刷された漫画になると読者に雄弁に印象深く語りかけていて作画の技量の高さに感服した。