東北沢駅

 午前3時前、曇天。台風一過、穏やかな深夜である。近頃はまた夜型生活になっている。このところは殆んど仕事らしい仕事が出来ていない。文章書きよりも、やはり絵を作っているほうが性に合っていると、つくづく感じている。たとえ売れなくて将来粗大ごみになって廃棄されることがあったとしても、絵を、立体作品をのびのびと作っていたいと思っている。それの方が幸せである。
 先日、30年前を回想して小田急線の東北沢駅付近をグーグルの地図で徘徊した。そこは昔、私が住んでいた4畳半の部屋が在った場所で、個人的には思い入れがあった。
 この部屋にいた3年間は、私にとっては丸ごと絵画制作の試作期にあたり一番苦悩した時期であった。真剣に取り組めば、取り組むほど絵は出来ずに日々懊悩としていた。キャンバスで大小あわせて100枚は描いて駄目にした。絵はできなかった。
 そのときの思いを胸に、グーグルの仮想空間のような地図のなかを行くと、かつての自分の部屋があった建物はなく、別の見知らぬ建物が建っていた。道路も拡張されていて見知らぬ場所になっている。なんと言っても、東北沢駅が無くなって線路が撤去され、踏切も無くなっているのは驚く。駅は地下に移動しているらしいが、この地図では判然としない。瞬時、寂寞とした思いが胸のなかをよぎる。あれも、これも見知ったものすべてが消え去っていた。僅かに残るのは駅前の小さな駐車スペースとそのブロック塀ぐらいで、なにも無かった。無慈悲にも時間は、私の30年前の記憶を消してゆくような気がする。