「羅生門」印刷作業

 午後2時、晴天。気温摂氏36度。連日、殺人的な暑さが全国で続いている。東京でも、昼間の、陽の高いうちは、屋外の作業ができにくく、不便である。うっかり、少しでも肌を露出して外にいると、強烈な紫外線で、たちまち皮膚がぷつぷつと腫れあがり日光障害の症状がでる。すべての屋外での作業が日没からとなり、私は、さながら夜行性の蝙蝠にでもなった気分である。それに、この頃は、はっきりと加齢による身体の衰えを感じていて、以前も、加齢による衰え云々を言っていたが、この頃のものは以前のものとは比較にならず、ほんものの、真正の、加齢の衰えである。街中では、按摩、鍼灸所が至る所で繁盛しているが、うなずける。社会全体で高齢化が進んでいるなら尚更である。按摩、マッサージは必要不可欠な人生での要素である。と、云うよりも私にあっては肩、腰のマッサージをしながら、ときおり仕事をしている塩梅である。つまり、仕事をしているよりも休息もしくはマッサージをしている時間のほうが長くなっている。もうそろそろ版画の仕事が肉体的につらくなってきている。
 併し、そうは言っても木版漫画「羅生門」の制作は続行中で、今は彫版作業は終り、バレンによる手刷り印刷作業に入っている。以前、印刷が11枚目まで済み、昨日12枚目を刷り、今日13枚目を刷った。昨日は、一枚刷るのに1時間20分掛り、今日は1時間30分程掛っている。私の印刷は、版にインクをのせるのにローラーを使わずに、小さい刷毛で、少しづつインクを薄くのせ、そして、バレンで軽く紙に触れてゆく。また、薄くインクをのせ、バレンで、を繰り返してゆく。版画を刷る、印刷すると云う観念よりも、モノタイプ版画をつくる、もしくは版上で絵画制作をしてゆく感覚に近い。だから時間は掛る。時間は掛るし、極端に疲労する。疲労するのは両手、両肩、腰だけではない。神経が疲れる。疲れるから、たくさん刷ることはできない。刷るには刷れるが、併し、仕事が粗く、失敗箇所が続出する。と云うわけで、たくさん仕事はできない。